• Faculty of Arts / Art Award

ONLINE SMOKE / 小松原 裕輔

ONLINE SMOKE
小松原 裕輔 (こまつばら ゆうすけ)
芸術学研究科 現代表現研究分野
インスタレーション
ミクスドメディア

小松原裕輔の修了作品「ONLINE SMOKE」は、複数のオブジェクトを組み合わせたインスタレーションである。2019年、南米で発生したアマゾン熱帯雨林の大火災は、環境問題に関心を示す著名人を中心に、世界的な注目を集めた。TwitterやInstagramといったSNSには、連日、火災の画像が投稿され、地球環境への影響や国際企業による搾取についての議論が交わされた。作者である小松原は、タイムラインを埋め尽くす画像やテキストのコンテンツとなってしまった地球規模の環境破壊と、その出来事が実際に引き起こしている危機的状況との間に存在する埋めようのない乖離に注目し、本作品を制作している。作者は、この乖離を象徴するモチーフとして、アマゾンに自生し香料の原料となるトンカ豆を使用している。シャンプーや香水などに使用されるこの豆は、私たちの日常に最も馴染み深いアマゾンの香りであり、作者の日常とアマゾンを具体的につなぐ数少ない存在である。作者が実際に購入したトンカ豆の詳細な3Dスキャンデータはプラスチックに置き換えられ、視覚的に完璧なコピーとして出力される。同時に、香料に分離された黄色い液体は、トンカ豆の甘い香りだけを展示空間に充満させる。嗅覚と視覚に分離されたトンカ豆は、インターネットを通じて分離されている私たちの知覚の隠喩として機能している。このように、本作品は3Dプリンターなどの先端的な技術を用いながら、危機的な環境破壊がSNSを通じて陳腐化する様に注目し、トンカ豆という稀有な素材を嗅覚と視覚に分離するという、コンセプトの鮮やかな展開によって制作されている。作者の現代社会への鋭い観察力と直感、それらを展開するための膨大なリサーチ、さらに、思考を形に落とし込む確かな造形力を体現する優れた作品である。