両頭愛染曼荼羅 (奈良国立博物館所蔵 – 現状模写)
田原 千帆 (たはら ちほ)
芸術学研究科 絵画研究分野 日本画
921mm×394mm
絹本著色
軸装
田原千帆は、奈良国立博物館が所蔵する鎌倉から南北朝時代の絵画「両頭愛染曼荼羅」絹本著色 縦92,1×横39,4cmの現状模写を行った。
奈良国立博物館の協力を得て、原寸画像を入手し、準備段階として薄美濃紙に墨による上げ写しの方法で細部まで丹念に写し取った。基底材は原本に近い密度の絹目を探し、渡辺絵絹株式会社の補絹から選んだ。絹は矢車と胡桃で染色した後に繊維の表皮にあるセリシンを叩解し、描きやすい平滑な状態を作った。絹枠に張り込みドーサを引いて絹の準備が整う。あらかじめ上げ写ししてある薄美濃紙を絹の下に当て、墨で転写した。彩色に入る前に、使われている色を読んで色見本を作成し、奈良国立博物館にて原本の熟覧調査を行い、色見本を調整して使用絵具を決定した。肌裏は、彩色との兼ね合いを考慮して薄墨染めとした。原本は片ぼかしを多用した繊細な描写であり、複雑な表現と深みのある古色を再現するには多大な時間と集中力とを費やした。田原は、描写力と色彩感覚、計画性が試される模写の過程で、理論的な愛染曼荼羅の図像研究や、古典の技法材料研究から多くの知見を得たことによって、創作への向き合い方にも変化が見られる。
現状模写作品は見応えのある出来栄えで、資料的価値も高い秀作である。