• Faculty of Arts / Art Award

2270011_川本実果_Reflection (a river)_01s

Reflection(a river),(cast shadow)
川本 実果  KAWAMOTO Mika
造形芸術専攻 染織造形研究室
H. 1120× W. 1940× D.30 mm
a river:帆布、発泡バインダー、樹脂顔料cast shadow:帆布、樹脂顔料

『Reflection』と名付けられた2つの作品は、それぞれ「a river」、「cast shadow」のサブタイトルが与えられている。
「a river」は、波紋の起こり方や映り込みの徹底した観察に基づき、夕映えにきらめく川面が見事に表現されている。具体的に言えば、たゆたう水面が写した川辺の風景を、晒の帆布に透明度の高い染料系の顔料をエアブラシによって、丹念に描き出した美しい絵画作品であり、作者が学部時代から試行錯誤してきた発泡バインダーによる画布(生地)の凹凸加工、いわゆる波状のマチエール効果が用いられた染色作品とも言える。
もう一方の作品「cast shadow」は、水に反射した光が、影の中に影を落とす様子を表現している。詳しく説明すると、橋脚の壁面には日光による橋の影があり、その影の中に川からの反射光が当たり、水の揺らめく影が映し出される。また同様に、人の影も水の反射光によって橋の影の中に揺らめくように映されていて、同一人物の2つの影は、直射日光によるものと水の反射光による別のものが描かれている。言葉にすると複雑で説明し難い不思議な事象ながら、誰もが似た体験をしたような既視感を覚え、生成りの帆布の画面に施された墨色のトーンはノスタルジーを誘う。
 いずれの状況も静止画像として平面に定着させるのは非常に困難な仕事と想像するが、綿密に計画された作品の完成度は、修士2年間の創作研究の成果の結実である。さらに、作者はこの2つの作品の関係性を「どちらも川の水と光の反射による事象であるが、全く違った様相で現れていることが興味深く思えた」と語ってくれた。
 染織を学びマテリアルの扱いや造形思考は工芸に根ざしてはいるが、伝統的な技法や表現に縛られず、作者のセンシティブな感覚がストレートに現れた現代的かつ知的な作品である。