肖像
大江 里実 OOE Satomi
造形芸術専攻彫刻研究領域彫刻A研究室
大理石像 H2150×W1080×D740mm
石膏雌型 H1570×W480×D450mm
大理石、石膏
大江里実さんの修了制作「肖像」は石膏と大理石による2体の像で構成された作品です。
石膏像は塑像からの型取り作業段階における雌型です。この像は2018年当時高校生だった作者が専門的に彫刻を学ぶ以前に等身大の人体彫刻制作を試みたもので、大学進学のための転居をきっかけにして作業が中断され実家に保存されていたものです。
本来、型取りを行う際には凹凸を反転させて中空になった雌型に石膏や樹脂等を貼り込むことで任意の素材に置き換わった像が成形されますが、本作の石膏像は手足等末端の粘土が掻き出されることなく残ったまま、その形態がネガティブとポジティブのどちらにもつかない状態で留まっています。
もう一つの大理石像は2mを超える大型の立像です。4000㎏の石塊から彫り出されたこの像は、イタリアで感銘を受けた大理石彫刻をきっかけに進学した大江さんの本学での研究の集大成として制作をされています。
本作を構成する石膏像と大理石像はどちらも作者である大江さんの弟がモデルにされており、同じモデルを対象に制作することでかつて完成を断念し石膏雌型から成形されることのなかった像を再び現出させることが試みられています。
また身近な人物をモデルにしたこの2体の肖像は、6年の歳月をかけて彫刻研究に取り組んできた大江さん自身の自刻像として見ることも出来ます。
継続を伴う深慮的な研究姿勢が感じられる本作は、彫刻表現の可能性の在り方を示す優れた作品です。