• Faculty of Arts / Art Award

2031217_松浦朱葵_Border_01S

Border
松浦 朱葵  MATSUURA Toki
美術学科油絵専攻
F100号
キャンバス、油彩

 一点透視図法に基づく的確な陰影表現と質感表現を伴った自然主義的で重厚なリアリズムが目を引く。しかし、同時にある種の不穏さが鑑賞者に強く印象付けられる。執拗に描き込まれた壁や床に残された汚れや傷の痕跡は人間の存在を喚起する一方で、絵画の中央部に配された鏡には、その風景を眼ざす主体(作者自身)が映り込んではいないのである。まるで人間が一人もいなくなった後の世界を覗き込んでしまったかのような、どこか所在のない寂寥感に満ちた鑑賞経験は、イメージに介在する人間の存在と不在のコントラストによるものだろう。
 私たちが建築空間の内部を行き来するとき、部屋は「部分」の連続としてあるため、建築「全体」を見渡すことはできない。開口の先や壁の向こうには、何があるのか何もないのか、誰がいるのか誰もいないのか、私たちは知ることができない。松浦の室内風景画には、「Border」すなわち「境界」というタイトルが付けられているが、そこには私たちの生活空間に潜む「未知」への想像力が示唆されている。