• Faculty of Arts / Art Award

漂う
梅敷 亮 (ばいしき りょう)
造形芸術専攻金属造形研究室
h3240×w3620×d5800mm
鉄、真鍮、杉、合板、石膏ボード、合板、自作のお香
立体

梅敷は、お香の小さな燃焼から生じる幻想的な煙の景色に着目し、香炉の構造と煙の関係について実験を重ねながら研究を進めてきた。香炉は、お茶席でも見立てられる小さな道具の一つだが、梅敷の修了制作における香炉は、鑑賞者を招き入れる空間として構築されている。その構造物は、茶室の突上げ窓をイメージさせる明取りや、にじり口を思わせる入り口を備え、「侘び茶」の茶室を連想させる。それとは対照的に出口の扉は、日常の世界に戻すために通常の形をとりながらも逆戻りできない仕様になっている。この作品は、言わば、香炉の中に人を招き入れるような、もてなしの空間(香炉)のようである。
 茶室の路地を思わせる湾曲した通路を進み、腰を折って結界を超えて暗闇に入ると、闇の中にぼんやりとした弱々しい明かりが目に入ってくる。闇の中央には、香を焚くための八角の錆びた鉄製の筒が立てられているが、すぐにはその存在は認識できない。鑑賞者は数分間、闇の中で瞑想することとなる。やがて宙に浮かぶ小さな空間に煙の動きがかすかに見え始めてくる。天井を突き抜ける鉄製の筒は、煙が抜ける煙突の役割もあるが、煙を認識するための最低限の自然光を取り込む重要な開口部となっている。
 錆びた鉄は、腐食し続けやがて朽ちてかたちを失う、香の煙もとどまることなく流動しやがて姿を消していく。「一期一会」が頭に浮かぶ。
 本来、香りを聞くお香であるが、視覚的操作によって聞香と香炉を同時に体感させることに挑戦したスケール感のある力作に仕上がっている。