• Faculty of Arts / Art Award

何も見ていない人たち
井上 舞 (いのうえ まい)
造形芸術専攻 彫刻研究
裸婦臥像: h 700mm×w 1700mm×d 750mm
首像:各、約 h 500mm×w 250mm×d 250mm   6体
立体(群像)
ジェスモナイト(水性アクリル樹脂)

修了作品「何も見ていない人たち」は、等身大裸婦臥像1体と首像6体から構成される群像作品です。作者である井上は、オーストリアの精神科医であり精神分析学の創始者であるフロイトや、その弟子のユングの心理学に興味を持ち、「修了小論文」の中で心理学が芸術作品に与える影響について述べています。
 本作品も、ユング心理学の「ペルソナ」(社会生活の中で人前に見せている自分)に対する「シャドウ」(心の奥底にあるもう一人の自分)に着目し、具現化した作品です。「シャドウ」は普段私たちが生活している中では、意識することの出来ない本来の自分であり、横たわる裸婦は“眠り”の中で、もう一人の自分と向き合っています。また6体の首像は、作者の中の「シャドウ」に対し様々な形で造形化を試みたものです。

 井上の造形は心の内面を深く追求する制作のため、表面の凹凸が次第に激しく複雑なものとなり、型取りにおいても、一回限りの壊し型にもかかわらず、雌型には「シリコン」を使用するなど、独自の手法を駆使しています。また雄型もこれまでの「FRP」に代わる「ジェスモナイト」という新素材を使い、原型制作で用いた水粘土の材質感を生かした仕上がりにするため、着色剤や鉄粉を混ぜ合わせた着色法を研究し、素材感を生かした内面的な世界の表出に成功しています。
 彫刻専攻では、人体塑造制作を彫刻的造形力を培う基礎の一つとして捉え、学部では4年間を通した課題としています。井上は、学部時代から人体塑造に対して際立った創作力を有しており、大学院では表現内容、技術面でもさらに高いレベルの造形化に成果を上げました。自身の世界を深く見つめ、忍耐力を持って具現化することで、人間の普遍性を探求する姿勢を高く評価します。