解放区
中井 彩瑛
デザイン工芸学科漆造形分野
①H110×W92×D68・5g ②H120×W260×D12・13g ③H50×W125×D53・4g ④H15×w15×D23・2g ⑤H54×W120×D20・3g ⑥H12×W23×D2・2g ⑦H58×W32×D25・3g ⑧H90×W27×D35・1g ⑨H72×W45×D13・5g ⑩H55×W35×D35(ペア)・2g ⑪H47×W120×D7・4g (計11点)
漆、麻布、顔料、金粉、銀粉、錫粉、青貝、白蝶貝、真鍮(k18メッキ)
卒業作品「解放区」は、幼い頃からよく遊んだ、作者にとって馴染み深いトランプカードをモチーフにした装身具である。トランプというカードゲームのルールに即した規格や、シンメトリーで整然としたデザインは、確立された美を感じさせる一方、階級や権威、富などを象徴するシンボリックな図柄には、社会という組織的な階層構造を内包している。作者はそのトランプカードを構成する形を解体し、身につける自由で軽やかな装身具として再構成することにより、既存のルールや恒常的な形式から解放することを試み、ブローチ、リング、ピアスから成る一連のジュエリーとして成立させている。トランプの素材に主に使われる紙を、乾漆という悠久の造形に置き換えることで、そのカードという薄く軽い形状を損なうことなく、強度を高めることに注力しており、その制作方法にも工夫が感じられる。金具へのこだわりも強く、金属加工を自らおこなうなど、分野を横断した研究に精力的に挑戦しており、その成果が作品の完成度において顕著である。また模様においても、漆の艶やかな質感や、蒔絵、螺鈿、または色漆による加飾表現を上手く使いまとめ上げており、学部の数年で習得した漆芸の技術を余すことなく取り入れようとする作者の強い思いや、制作に対する意気込みを随所に感じ取ることができる力作である。漆樹を育て採取する経験から、その貴重な材料や、手間という価値を作品にどのように昇華させるべきか真摯に向き合いながら、それでいて伝統に囚われることのない軽やかな造形には、今をとらえる感性を備えたデザイン力の高さが伺える。作者にとって今後の指針となる作品となるであろう。技術面においてまだ未熟さはあるが、先述のことを高く評価するとともに、デザイン工芸学科の卒業作品として有益な参考資料となることが期待できる。