• Faculty of Arts / Art Award

海 / 川本 実果


川本 実果
デザイン工芸学科染織造形分野
H.3,000 × W.3,200 × D.20 mm
帆布、発砲バインダー、墨

 従来、染色作品は生地に図柄を染料により定着させることで、「一枚の布」になることを本義としているので、素材の持つ本来の特性を損なうことなく、どちらかと言うと、しなやかさや軽やかさに重きを置いた表現が多い。しかしながら、作者は2枚のスクリーン状の帆布を、立体的で厚みと適切な重みを持った存在感のあるテキスタイル作品『海』へと昇華させた。帆布の表裏両面に発砲バインダーで波模様を施すことで生地全体を収縮させ、凹凸のある画面を作り出し、不思議なテクスチャーに置き換えることに成功した。素材と技法の特性を研究し、何度も試作を繰り返すなかで割り出された波紋の揺らぎは鑑賞者を心地よくたゆたわす。作者の狙いは「人為的な波紋と、自然の波紋の交差と融合を目指した」とのことで、それを補完するように手前の人物と上部に配置させた海猫のシルエットをエアブラシによりデリケートな陰影が導入されている。水面に映り込んだ人と鳥の扱いにもうひと工夫欲しいものの、大画面でありながら隅々まで丁寧に作り込まれた力作であり、誰もが清々しい海風に優しく包み込まれる詩情豊かな造形である。