逃走者たち
杉森 杏香
美術学科彫刻専攻
H350X W280 XD440
大理石
卒業制作「逃走者たち」は、翼を持つ空想上の生物が自身の翼に頭を埋める姿を大理石から彫り出した彫刻作品です。小型でありながら1年の時間をかけ
て制作された本作は、全体に羽根や鱗が高い密度であらわされています。
作者である杉森杏香さんは本作品で “翼=自由” の象徴という共通認識を基に、翼を持つが飛ばないことを選択する者の姿を通して“飛ばない自由”への思索を行っています。緻密な羽根の造形からは「軽さ」や「柔らかさ」が感じられますが、その軽くて柔らかい羽根を持ちつつも「重さ」や「硬さ」を印象付けるような姿勢で身を縮める姿から杉森さんは、空を自由にはばたくという“自由“の重さを表現しました。本作品では“翼は飛ぶためにある”という概念を束縛としてとらえてみることで飛ぶことが出来るのに飛ばない選択をする“消極的な自由”についての思考がされています。そして、閉塞した状況からの解放を求めて自ら制限や束縛を選択するかのような社会状況にも通じる、現代の“自由”と“逃避”の関係に苛まれる作者自身も含めた「逃走者たち」が造形されています。
学部3年次から石を使った制作の研究を始めた杉森さんは、類まれな集中力と実直な造形力を持ちながらそれに慢心することなく、常に自身の考えの根本へと立ち返って新たな試みに挑戦し作品を展開してきました。