• Faculty of Arts / Art Award

p.m. 13:00
畠中 彩 (はたなか あや)
造形芸術専攻 油絵C研究室
イメージサイズ(H550mm×W1100mm)
作品サイズ(H650mm×W1300mm
雁皮紙、和紙
銅版画(メゾチント)

この作品は銅版画技法の一種であるメゾチント技法を用いて制作されている。これは多岐にわたる版表現の中でも唯一、明暗における極めて豊かな階調を再現できる版画技法としてこれまで知られてきた。畠中はコンテを使ったデッサンによる習作を何度も繰り返したのち、この技法を用い、今回3枚1組による大作とも言えるサイズの版画作品を制作した。
 日常風景の中に配された空想上の小さな犬の集団は、それぞれの3枚の作品を順番に見比べることによって、映画の一コマででもあるかのような不思議な時間の経過を感じさせられるシュールな空気感を帯びたものとなっている。
 ここでは、通常一つの版からはひとつのイメージしか得られないというこれまでの版画の常識が覆され、作者は刷りの工程途上に敢えて製版作業を繰り返すことによって、時間の概念を提示したと言えよう。またこれは、版画の持つ「複数性」という性質を利用しただけに留まらず、平安時代につくられた「信貴山縁起絵巻」など、古くから行われてきた異時同図法による絵画表現手法を自らの作品表現に取り入れることで、その目的をより客観的な視点からも試みている。
 さらにこの作品では、雁皮刷りという版画印刷技法が用いられている。これは雁皮紙という極めて薄い和紙に、油性インクによる再現性を高めるために考案された日本独自の印刷技法であるが、通常、厚い洋紙をその裏打ちに用いるのが一般的である。しかし作者はここで厚い洋紙の代わりに、薄い楮による和紙をその裏打ちに用いることによって、作品に透明度を与え、移りゆく時間という抽象的な概念によりリアリティを付与させることに成功している。
 以上の観点から、本作品が極めて優れた発想と技術によって制作された作品であると評価した。