瀧
蒋 皓 ( ショウ コウ)
造形芸術専攻現代表現研究室
プラスチック、アクリル樹脂、木、紙にインクジェットプリント、シュレッダー
インスタレーション
蒋皓の修了作品「瀧」は、シュレッダーで裁断された大量の紙を吐き出す立体作品を中心としたインスタレーションである。中国の世界遺産「万里の長城(グレート・ウォール)」になぞらえた「グレート・ファイヤーウォール」によって守られた中国のインターネット社会では、中国政府にとって不都合な情報にアクセスすることが禁止されている。作者の蒋は、この中国の特殊なインターネットの現状に注目し本作品を制作した。4つのシュレッダーが仕込まれた中央の立体作品の4面には、それぞれ中国の美しい滝の写真が3Dプリンターで立体的に表現されている。それぞれの真っ赤な滝からは水ではなく、シュレッダーで裁断された紙が数十メートルにわたって溢れている。一見すると、美しい自然の景色を模しているようにも見える紙の滝の表面には、中国国内のインターネットでは閲覧することのできない情報が印刷されている。滝の隙間から出た直後は、おぼろげながらも印刷された図像を見ることができるが、床に落ちてしまえば、大量に切り刻まれた紙と混ざって、全く内容をうかがい知ることはできない。インターネットの情報の洪水の中で、グレート・ファイヤーウォールによって選別された情報は、その内容を知ることができないように、真っ赤な滝から溢れ出る情報が伝えていることは私たちには届かない。このように、常態化した検閲と、その事実をまるで風景のように捉えている中国のインターネット社会の状況をシュレッダーで裁断される大量の情報と中国の美しい滝の風景になぞらえて制作している。自国の社会への痛烈な視点と、シュレッダーから吐き出される大量の紙から感じるユーモア、それらの思考を鮮やかに形に落とし込む確かな造形力を体現する優れた作品である。