• Faculty of Arts / Art Award

何も見ていない人 I、II、III
井上 舞(いのうえ まい)
造形芸術専攻 彫刻研究
「何も見ていない人 I」 h 500mm×w 230mm×d 250mm
「何も見ていない人 II」 h 300mm×w 330mm×d 230mm
「何も見ていない人 III」 h 530mm×w 230mm×d 210mm
立体(3体1組) 
ジェスモナイト (水性アクリル樹脂)

「何も見ていない人 I、II、III」は、修了生である井上 舞が制作した、首像3体からなる彫刻作品です。この作品は修了制作優秀賞を受賞した「何も見ていない人たち」(等身大裸婦臥像1体と首像6体からなる作品)の内の、首像部分3体を独立させたものになります。本来であれば、7体の彫刻を持って構成される、優秀賞候補作品全てを買い上げたいところですが、本作品は各体それぞれが彫刻として自立した強度を持っており、3体のみの構成となっても作品の持つ魅力や表現内容は十分伝わると判断し、また芸術資料館の収蔵庫のスペースの不足といった状況を鑑み、7体の内3体のみを買い上げ作品の対象としました。

 作者である井上は心理学に興味を持ち、本作品もユング心理学の「ペルソナ」(社会生活の中で人前に見せている自分)に対する「シャドウ」(心の奥底にあるもう一人の自分)に着目し具現化した作品で、3体の首像は作者の中の「シャドウ」に対し、様々な形で造形化を試みたものです。
 井上の造形は表面の凹凸が激しく複雑なもであり、型取りにおいても雌型には「シリコン」、雄型には「ジェスモナイト」という新素材を使い、独自の手法を駆使しています。また原型制作で用いた水粘土の材質感を生かした仕上がりにするため、着色剤や鉄粉を混ぜ合わせた着色法を研究し、試行錯誤を繰り返しているため、6体の首像には着色の違いが見られますが、買い上げる3体の首像は、色彩的にも統一されたものとなっています。

 彫刻専攻では、人体塑造制作を彫刻的造形力を培う基礎の一つとして捉え、学部では4年間を通した課題としています。井上は学部時代から人体塑造に対して際立った創作力を有しており、大学院では表現内容、技術面でもさらに高いレベルの造形化に成果を上げました。学部生の人体塑造の展開における見本となる作品であり、大学で買い上げることにより今後の彫刻専攻の教育にも生かす事ができます。自身の世界を深く見つめ、忍耐力を持って具現化することで、人間の普遍性を探求する姿勢は、彫刻専攻の学生たちの模範となるものと考えます。