帰る家
鵜野 千晴 (ウノ チハル)
芸術学研究科 彫刻研究分野
サイズ可変 映像インスタレーション
ミクストメディア
作者の鵜野は2014年8月20日未明に起きた広島市の土砂災害で被災してしまった。鵜野の住んでいた家が土石流に襲われ、彼女は家族と共に夜中家から避難したのである。その後、鵜野の家が建つ場所は住むことのできない地区に指定され、近い将来、鵜野の家族達は家を出て行かざるを得ない状況になってしまった。この大きな作品は、そのような鵜野自身の境遇から制作された。
この作品は二つの要素で構成されている。
一つ目は、鵜野の父と叔父そして鵜野のボーイフレンドの助けを借りて作った、木造の家だ。この木造の家は、大工である鵜野の父が建て実際に鵜野や家族達が住む被災した家屋を元に、縮小して作られている。二つ目は、破壊された家の周りの風景、本作品のプランを鵜野が父と議論している様子、前述のチームメンバーで家を作っている過程、そしていずれ立ち去らなければ行けない家で楽しく過ごす鵜野の家族と5匹の飼い猫達の姿が記録されたビデオだ。
作品の家の中にはテーブルとランプ、そして最近撮影された家族写真が置かれているのみである。家にしては小さいが、人が住むには充分な大きさがあり、彫刻作品とも建築作品ともとれる。ビデオには、被災した悲劇と、鵜野と家族とのやりとりの中に自然とある面白さ(特に彼女が作品プランを父に説明し、父が驚いているシーン)が対比され交互に映し出されている。
鵜野の作品は、アートが悲劇に対して強く美しく、そして面白く対応する力があることを見せてくれた。