• Faculty of Arts / Art Award

経絣着物「おわりとはじまりの海」
久保田 寛子 (クボタ ヒロコ)
芸術学研究科 造形計画研究分野 染織造形
H 1700 x W 1700 mm
平絹(21中の10片)、真綿紡ぎ糸(220D)、すくも藍、茜、ラック、杏、桜、栗、梔子、渋木、臭木

 作者は博士前期課程の2年間に「旅」をテーマとした一連の作品群を制作し、経絣、緯絣、経緯絣などの変化に富んだ技術と天然染料について探究してきた。
 修了作品「おわりとはじまりの海」は、広島の能美島や瀬戸内海の島々に伝わる風習で「遠方からの旅人にご馳走をしてもてなす」をテーマとしている。船尾波や泡を表現した絣紋様がリズミカルで心地好い。瀬戸内海の海松色や藍色を基調とした青から緑までの繧繝暈かしと茜色の織色は、艶やかで美しく、作者のコンセプトである「50代の旅を終える旅人が次の新しいはじまりをむかえる」ための讃歌を奏でるようだ。加えて、自ら考案し改良を重ね完成させた「ロープ絞り絣」によって繊細な緊張感が生じている。
 桜や杏を栽培し、すくも藍、蓼藍、茜などの染料を作り、新しい絣紋様を創造するという優れた技術と大変な労力によって作者の世界感が凝縮された本作品は、高度な技術と独自の瀬戸内海のデザインが結集した秀作である。