Hopeful drowned body
西村 七海(ニシムラ ナツミ)
美術学科 彫刻専攻
H 213 × W 82 × D 79(cm)
セメント鋳造
本作品は、作者自身の身体を型取りしセメントに置き換えたものであり、逆さまに立てられた身体の頭部が透明樹脂のキューブに埋没しているという構成になっている。 作者曰く、テーマは「未来への期待感に溺れながら浮遊する重たい身体」ということである。つまりこれは現在の作者の心境を吐露する自刻像であり、大学卒業を前に若者特有の万能感と社会性を強いられる現実の間で身動きが取れない葛藤を表してる。このような心持ちは誰もが一度は持つ普遍的な感覚であり、人間が成長し大人になるにあたって避けては通れない通過儀礼的状態と言える。本作品は、このような命題を表現するための技法・素材・構成を巧みに選択し彫刻として昇華している。自身の身体の型取りから成形されたbodyは、即物的であり感覚から切り離された存在として提示されている。また、逆さまに設置された状態は平衡感覚を失い地に足がつかない浮遊感を示している。さらにセメントと鉄筋というビルなどの建築物を連想させる素材は、その重量感もさることながら実社会のメタファーとして捉えられ、社会人にならなければいけないという思いで萎縮する心境を表している。しかし萎縮する身体をよそに頭の中は未来への期待感に捕らえられ、息もできないほどである。素材の選択と構成によって作者の心境がダイレクトに鑑賞者に伝わって来る。そして、台座に設置することでこの現在の状況を外部化し一つのモニュメントとして、あるいは過去として切り離し、次の一歩を踏み出そうとする積極的な姿勢もうかがえる。このように本作品は、作者の切実な心境を通して、若者が葛藤の中で成長を模索する普遍的な姿を表すものであり、テーマに対し彫刻的な表現が不可分なく成立した好例と言える。