水響の韻律
佐藤 衣里(サトウ エリ)
芸術学研究科 造形計画研究分野 染織造形
H 1480 × W 2240 × D 45mm
檜、綿糸、インド藍
藍染、絞り染め、斜面加工研磨仕上げ
『水響の韻律』は、藍で染め分けられた小さな檜の四角錐の集合体(960個)が、菱形紋様に構成されている作品である。藍色の繧繝暈かしの中から、無数の菱形紋様が、揺らぎつつ浮かび上がってくる。近づくと、さらにその紋様は、糸が巻かれた軌跡の集積によって描かれていることを知る。それはあたかも水面に浮かんだ菱の葉とその白い花弁が風に揺らいでいるような、あるいは舞い落ちた雪花が落ちては消えて行くような、清逸な景色である。作者は、スギやトチ等の約15種類もの樹木に斜面加工と研磨仕上げを行い、藍で染色した結果、糸による防染が最も効果的であり、且つ最も美しく発色する「檜」に着目し、日本の絞り染めと融合させた。本作品は、檜の四角錐を綿糸で防染することによって3パターンの幾何学模様を表し、淡色から濃色までの10段階に染め分け、規則的に組み合わせている。これらは、これまでにない新しい芸術表現として誕生させるものである。完成するまで全体像が見えないという難しい制作過程にもかかわらず、作者が追求してきた「ゆらめき流れる時間軸」は、藍色と揺らぎのある直線と四角錐による陰影によって、精巧に艶やかに表現された。優れた研究と卓逸した技術に基づいた秀作である。