• Faculty of Arts / Art Award

独歩の衆
松本 千里(まつもと ちさと)
デザイン工芸学科 染織造形
H3250×W4900×D1000mm
ポリエステル布、ニット用ミシン
巻き上げ絞りを変化させたもの

『独歩の衆』は、日本社会を動かしている群衆に見立てた無数の大小の白い布の泡沫が、渦巻きながら壁から天井や床へと拡がっていく壮大な造形作品である。本作品は、現代社会のなかで個人の自己喪失感や心理的感染をともなって、偶発的に起る求心的攻撃的または遠心的逃避的な群衆行動を背景としながら、人と人のつながりが大きな流れを生むことを積極的契機として捉え、表現されている。  
作者は、テーマについて探求し、数多くの試作を行い、独自の表現方法を確立させた。白い布の泡沫は、ポリエステルとポリウレタンの混紡糸によって織られた伸縮性に優れた白生地を、日本の染織技術である巻き上げ絞りを変化させた方法によって手で絞られたものである。それらは作品の構想を基に布を立体裁断し縫合した後、各絞りの高さが5㎜から150㎜(直径が3㎜から17㎜)になる9種類の絞りを約30,000個に絞り分け、強弱をつけて伸ばしながら布全体を畝らせて設置するというものであった。  
鑑賞者は、リズミカルな大きな流れが揺らぎのある小さな絞りから構成されていることを知るが、やがて、光の振れさえも取り込まれた情緒的な「個と群衆」の世界に自分を投影し、自分を無にして、ほどよい快さのなかに安らぎを感じる。  
本作品は、染織の知識を駆使し、日本の現代社会への問いかけを踏まえて制作されている。それ以上に、清純な広がりの上に艶やかさが加わった表層の裏から、作者が直接描かなかった人間社会の虚しさが浮き出してくる秀作である。