• Faculty of Arts / Art Award

GEMME
古川 千夏
ふるかわ ちなつ

芸術学研究科 造形計画研究分野 金属造形
作品1:200×200×h250mm
作品2:290×290×h90mm
作品3:250×230×h140
有線七宝
銀、七宝

古川千夏は、「明治の超絶技巧」で知られる「並河靖之」「濤川 惣助」らの七宝の魅力に惹かれ、学部の頃から七宝の研究を始めるようになった。博士前期課程入学後も、従来の七宝の固定概念に捉われない新しい表現を生み出そうと、独自の展開によって表現の可能性を探ってきた。修了制作では、その成果として「GEMME」シリーズの3点を完成させ提出した。本作品の独自性は、有線七宝の有線(仕切)に使われる薄い銀製の綿材の扱い方にある。従来の有線七宝の有線は素地体に加飾される形のアウトラインとして、また釉薬の境界を築くための仕切の役割を持ち、仕上げの段階では均一な高さに研ぎ上げられて線のみが表出する。古川の有線は、その単なる線とは違い素地体の表層に凹凸が現れるように銀線の高さを通常のものより高く設定している。その高さを微妙に変化させ、素地体のフォルムと有線の要素が遊離しないよう、形と大きさを調整しながら立体的な存在感と微妙に変化する繊細さを共存させている。銀線は透明度の高い釉薬によって固定されるが、銀線を最も効果的に見せる厚さに留めることで銀線と七宝の互いの光の反射が色調にも変化を与える効果も重なり、素地体の造形と表層の造形が一体となって魅力的な立体作品となっている。本研究では、地道な実験を繰り返し、失敗の許されない工程を克服するとともに、技術的にも精密さと優先の安定性が求められる高い技術を修得し、新しい有線の表現の可能性を見出した。