乾漆海洋生物箱
中村 美緒(なかむら みお)
デザイン工芸学科 漆造形
460×200×130mm
漆、麻布、和紙、錫
漆芸・乾漆
アオリイカをモデルにして制作した乾漆造形による箱の機能を持ち合わせた作品である。イカが水の中で優雅に泳ぐ様を表現し、足やヒレの動きには試行錯誤を重ねている。また「変塗り」の伝統的な加飾技法を研究し、独自の表現方法を確立させている。具体的にはイカの皮膚の模様をベンガラや白の色漆でひとつひとつ点で打つ「高上漆」を施した後に錫粉を蒔いている。更にその上からスポンジで透漆を薄く何度も(多い部分は20回ほど)重ねて艶をあげることで、イカの透明感と奥から湧き出てくるような模様の立体感を表現している。造形的な表現でまとめるのではなく、漆の実用性を活かしたいという思いから、箱としての機能を持たせ、内側は外側の加飾、艶とは対照的に、呂色漆を塗りたててシンプルに仕上げている。作者は3年次前期より2年の歳月をかけて大小合わせ既に20点余もの作品を完成させており、それらは全て精密精巧で完成度が非常に高いものである。今回の卒業制作も細部の微妙な造形のこだわりから一見同じような作品を2点制作するなど、作者の造形に対する執拗なこだわりから生まれたものと言えよう。