• Faculty of Arts / Art Award

此処に眠りて滲む
松本 凌介(マツモト リョウスケ)

芸術学研究科 絵画研究分野 油絵

P150号 (1620×2273mm)

パネル/ 油彩

松本凌介は、九州は佐賀県に生まれ、佐賀県の美術専攻のある大学で油絵を学ぶうちに、より強固に画家としての生き方を求めるようになった。大学の指導教員の勧めもあって、広島市立大学で研鑽を積むことを選んだ。その入試を受けるために初めて広島に滞在した松本は、自らの決断がこれからの一生を決めてしまうことに恐れ慄き、ホテルの食堂で眺めた広島の街並みがまるで大都会に見え、彼の挑戦を不敵に嗤っているように感じた。
在学中は夢中になって制作研究に勤しみ、外部での発表活動も活発であったが、一方で発表を前提としない自画像を描くことで改めて基礎的な技術を掴もうと努力をしている。
松本はこの修了作品で、広島に於ける自分の精神的な成長を表そうとしたようである。初めて広島の街並みを見たホテルに取材し、街並みが水面に映る中で自分が水に浸り静かに横たわる姿を描くことで、広島で学びこの街を受容した達成感を表現している。
水面に映り込む建物が遠近法的に不自然で構成に難があり、その意図が適切に伝わる完成度には欠けるものの、正直な感情を絵画表現に昇華しようとする努力とその仕事量は認めなくてはならない。一見逆さにも見える驚きと画面を支える密度ある描写は、絵画表現のひとつの在り方として十分に評価出来る。